調達購買DX
購買・調達NAVI
購買調達DXとは、クラウドサービスやデータ解析、人工知能(AI)、RPAなどの最先端のテクノロジーを使って、購買管理 やソーシング、パーチェシング、支出分析、サプライヤー管理・評価などの購買・調達関連業務を行う手法のことを指します。担当者の勘や経験によって支えられてきた購買・調達関連業務において、テクノロジーの力で変革を求めるニーズの高まりを受けて、購買調達DXの活用が日本でも進んできています。
購買調達DXの定義
近年「購買調達DX」のみならず、「営業DX」「人事DX」など、「○○DX」という言葉を耳にする機会が増えてきました。こうした「○○DX」は、総称して「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれています。「DX」とは「Digital Transformation」の省略形で、デジタル技術を活用して業務効率化やビジネスモデルを変革することです。つまり、「購買調達DX」とは、デジタル技術により購買・調達業務の高度化・デジタル化を実現することを指しています。そして今、クラウドシステムやビッグデータ解析、RPA、機械学習、さらにはAIなど高度なテクノロジーによる購買調達関連領域のDX推進が注目されています。
購買・調達部門が担う「10の業務分野」
「購買調達DXを活用したいが、どのように進めればいいのかわからない」と悩む購買担当者は少なくないと思います。現状でも数多くのサービス情報へ容易にアクセスできますが、その前段として、まずはテクノロジーを用いてどの購買・調達課題を解決するべきなのかを明確にしておく必要があります。具体的には次のような業務分野などが考えられます。
(2) 契約作成・管理
(3) サプライヤー管理・評価
(4) 購買オペレーションの効率化・自動化
(5) 購買データの整備・可視化
(6) 支出分析
(7) コンプライアンス強化
(8) リスク管理
(9) CSR調達
(10) オンボーディング支援
上記分野それぞれにおいて、業務を効率化し、個々人の能力を超えた大きな成果を生み出すために存在するのが購買調達DXです。もちろん企業によって上記の分類が変わったり、購買・調達以外の部門が関連したりすることもあるかと思います。そのような個々の事情にかかわらずポイントとなるのは、分類された業務分野それぞれに対応するテクノロジーがあることを認識しておくことです。
購買調達DXの活用は「業務分野と課題」から検討するべき
購買調達DXの一般的な定義について先ほど説明しましたが、ここではそれに加えて「購買調達業務の分野ごとに存在する課題をテクノロジーによって解決し、効率化と成果拡大をもたらす」ものを「購買調達DX」と捉えて話を進めていきたいと思います。クラウドシステムにRPA、ビッグデータ解析、機械学習、さらにはAIまで、購買調達DXに関連する技術分野は非常に幅広いです。今後も日進月歩で新たな技術トレンドが到来し、それに伴って様々なテクノロジーが開発されていくことが予想されます。そのため、テクノロジーの視点から購買調達DXの活用を検討していくことは非常に難しいです。「効率化と成果拡大が必要な業務分野はどんなところか」「どんな技術・サービスを活用することでそれを実現できるのか」など、あくまでも業務分野と課題から購買調達DXの活用を検討していくことが望ましいです。
購買調達DXが求められる背景
ICTの進化は、ありとあらゆる市場に構造変化をもたらしています。「第4次産業革命」ともいわれるこの現象は購買調達の分野も無縁ではなく、購買調達DXも徐々にトレンドになりつつあります。その背景を紐解いていきます。
限られた人的リソースで、より多くの成果を求められる購買・調達部門
購買・調達を取り巻く環境はめまぐるしく変化しています。これまでのコスト削減の取り組みに加え、環境や人権に配慮した「持続可能な調達」、コロナ禍の混乱の中での安定的な購買の仕組みづくり、付加価値の創造など、経営に貢献する新たな役割も求められるようになってきました。
また同時に、人口減少社会に突入した日本では、将来にわたって慢性的な労働力不足が深刻化する状況となっています。深刻な労働力不足は、これまでように景気の波に左右され、改善されるものではありません。労働人口が減少し続ける世界でも類を見ない超高齢社会です。従来のアナログ的な購買業務のように人員を割いて対応していくことは難しくなります。購買調達業務の複雑化や不確実性の高まりは一層深刻化しながらも、人的リソースは絶対的に不足していきます。目まぐるしく変化する社会情勢の中、これまでの経験や勘が通用しなくなっていきます。このような環境の中、高いレベルでコンプライアンスを維持しながら、激しい市場環境の中で業務を行っていかなければならないのが現代の購買・調達部門なのです。
購買・調達部門が向き合っていくべき具体的な課題とは
厳しい購買・調達環境の中で向き合っていかなければならない課題とは何でしょうか。前述の業務分野に沿って挙げていきます。
(1) ソーシング戦略立案
購買・調達環境の変化に伴い、従来の常識や手法が通用しない環境に企業は置かれています。そのようなトレンドの中で、今までのQCD(品質・コスト・納期)の取り組みに加えて、市場変化やビジネスの状況に合わせた最適なソーシングを行うことが求められています。
(2) 契約作成・管理
近年の購買取引リスクの高まりを受け、サプライヤーとの購買契約業務にかなりのリソースが費やされているケースも少なくありません。ソーシングやパーチェシングといった購買業務のデジタル化が進む半面、契約締結・管理業務はアナログ的な業務がいまだに続いており、業務効率化の推進が急務となっています。
(3) サプライヤー管理・評価
調達・購買活動の根本となる適切なサプライヤーの管理や関係構築、サプライヤーリスクの管理などは、従来型のサプライヤー管理・評価制度で測ることが困難なケースも増えてきました。適切なサプライヤー管理・評価が事業発展に不可欠であると重視する企業も多いです。
(4) 購買オペレーションの効率化・自動化
長時間労働の是正・抑制は喫緊の課題です。短期間で今まで以上の成果を上げるために、社内のあらゆる部署で業務効率化を進めていかなければなりません。これは、さまざまな課題と向き合う必要がある購買・調達部門においても、同様です。
(5) 購買データの整備・可視化
多くの企業で優先課題として挙げられているのが購買データの整備・可視化です。後々のデータ分析に耐えうるデータ品質を確保していく必要があります。従来型の業務運用では、適切なデータが蓄積されていかないケースも多いです。
(6) 支出分析
購買業務を通じて蓄積される支出データは、購買業務が抱える様々な問題に示唆を与える情報が眠っていますが、膨大なデータから価値のある知見を抽出するためには、ビッグデータに適した分析が求められます。
(7) コンプライアンス強化
購買・調達業務は、金銭が絡むことから不正の温床となりがちです。よく耳にする例として、水増し発注によるキックバックや架空請求などの不正取引があります。こういった不正を効果的に検知するためには購買業務フローの特性や統制の実態を踏まえた不正リスクシナリオを検討の上、実効性のある監視体制を構築する必要があります。
(8) リスク管理
購買・調達環境を取り巻くリスクが多様化・複雑化する中、購入品の供給停止リスクに適切に対処するための「リスク管理」の重要性が益々増大しています。地震などの災害発生時に素早い対応が取れるように、重点サプライヤーを明確にし、それらサプライヤーの製造拠点を把握したり、代替サプライヤーや代替品の選定・確保を進めていく必要があります。
(9) CSR調達・持続可能な調達
企業活動による環境や社会全体への影響への関心の高まりを受け、多くの企業で、環境や労働環境、人権などの社会的側面に配慮した調達活動が重視されるようになっています。CSR調達ガイドラインを策定の上、サプライヤーのCSRの取組みを定期的に評価し、必要に応じて改善を求め、レベルアップを図っていく必要があります。
(10) オンボーディング支援(システムの定着化)
購買管理システムやサプライヤー管理システム、電子契約システムなどの各種購買関連システムの定着に課題を感じる企業は多いです。自社の従業員やサプライヤーがいち早くシステムの使い方を理解し、早期に自身の手で操作・利用できるように支援する体制が必要です。
10の課題・分野それぞれに対応したソリューションが生まれ、進歩を続けています
上記で挙げた業務別の課題を見てみると、その中にはここ数年のうちに顕在化してきたものがあることに気付かれるかと思います。かつてない変化の波にさらされている現代では、購買・調達部門の課題もまた、加速度的に増え続けていくことが予想されます。その上、個別の課題は、それ単体で解決するものではないということも念頭に置いておかなければなりません。コスト競争力強化の大きな機会であると同時に、負の遺産にもなりつつある購買・調達業務。購買・調達業務や経費精算をしない企業はありません。しかしながら、ビジネスの成長や複雑化によって、そうした業務のリソースやコストは大きな負担になっています。企業を支えるはずの業務が、むしろビジネスの悩みのタネになり、成長を阻む要因になってしまっています。今後、ビジネスの多極化やグローバル化が進めば、購買・調達業務はさらに複雑化し、業務負荷が高まるのは明らかです。
購買調達DXとそれを具体化したさまざまなサービスは、こうした状況を踏まえて日々進歩を続けており、購買・調達業務のあり方や運用を激変させようとしています。上に挙げた10の分野・課題のそれぞれに対応したソリューションが生まれ、激しい競争環境の中で新たなサービスが続々と誕生しています。
購買調達DXに関わるテクノロジーの種類
一口に「購買調達DX」と言っても、そのカバーする領域は広く、対応する技術もさまざまです。購買・調達業務への応用を考える上で、まずはそれぞれの技術特性を押さえておくことが必要となります。ここでは購買・調達分野に焦点を当てて、各テクノロジーのトレンドをまとめてみました。
AI――人間と同等の知能・判断力を目指す
AIが人間と同等の知能を得るには、大量のデータをもとに物事の規則性や関連性を見つけ、AI自らが判断できるように育てていくステップ「機械学習(Machine Learning)」が必要になります。この機械学習をさらに発展させ、人間の脳が行っている判断に近づけるための仕組みが「深層学習(Deep Learning)」です。人間の脳神経回路の仕組みをヒントにしたアルゴリズムにより、機械自らが学習を繰り返し、判断する力を身につけていきます。
購買・調達部門がAIの活用を積極的に推進していく際は、自社の購買・調達業務に精通している人が、AIのリテラシーを身につけ、適切な業務に活用していくことが、AI活用を成功させるポイントです。
RPA――単純作業の代替だけでなく、人に近い業務にも対応
昨今の人手不足の問題も相まって、業務の生産性向上というテーマは、どの企業においても共通する喫緊の課題であると言えます。そんな状況の中で注目されているのがのが「RPA(Robotic Process Automation)」です。
RPAとは、主に事務業務を自動化するテクノロジーのことを指し、「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」とも呼ばれます。わかりやすい例としては「データ入力」が挙げられます。所定のシステムを使い、決められた運用ルールに従って標準化された業務を行うケースにおいても、場合によっては大量の人的リソースが割かれ、ヒューマンエラーも起きがちです。こうした事務業務を自動で処理させることは、効率化のみならずミスの防止にも繋がります。
さらにRPAは進化を続けています。前述のAI技術とも連携し、より大量のデータを処理・分析できるようになった「EPA(Enhanced Process Automation)」や、データ分析結果を踏まえて最適な対応の提案までできる「CA(Cognitive Automation)」といったテクノロジーも登場しており、より複雑で人間に近い業務に対応できるようになっています。
こうして自動化できる業務範囲は非常に幅広いです。購買・調達業務で言えば、
- ・各購買依頼の読取りと適切な購買担当者への自動振り分け
- ・購買依頼情報の不備チェックや不備内容の自動表示
- ・適切なサプライヤー候補の提案
- ・購買実績を踏まえた査定価格の提示
- ・発注処理の自動化
- ・未検収レポートの自動作成と送信
- ・支払情報と請求情報の照合の自動化
- ・各案件のステータスの可視化と優先順位付け
といった業務をRPAに任せることが可能です。
API――単体のシステムでは成しえない課題解決
企業が抱える購買・調達の課題は多岐にわたり、単体のシステムのみで解決できるケースは多くないのが実態です。それぞれ異なる分野に強みを持つシステム同士をシームレスにつなげれば、単体のシステムではなし得なかった課題の解決にもつながります。それを可能にするのが「API」です。
APIとは、「アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)」の略称で、分かりやすく説明すると、ソフトウェアの一部を公開して、他のソフトウェアと機能を共有できるようにしたものです。従来のシステムは、単体での使用を想定しているものが多いため、拡張性や柔軟性に乏しく、めまぐるしい購買・調達環境の変化に対応できないケースも多いです。しかしながら、システム自身が足かせになって、ビジネス環境の変化に対応できないのでは、本末転倒です。API機能を備えたシステムであれば、変更や新しい機能の追加が容易であるという特徴をいかして、時代の変化に合わせた購買・調達業務の高度化を実現できます。例えば、API機能のある購買管理システム であれば、電子契約システム やBIツール 、CSR評価システム などの購買・調達業務で使用されることが多い様々なツールやシステムとの連携が可能です。今日のように購買・調達業務の高度化が求められる中ではAPIは必須といえる機能でしょう。
プロセスマイニング――最適な購買業務フローを構築
多くの企業にとって、業務効率化をいかに進めていくかが大きな課題となっています。そんな中、「プロセスマイニング 」というテクノロジーに注目する企業が増えています。
プロセスマイニングとは、様々な業務活動を通じて蓄積される操作ログから業務改善すべきポイントを特定できる分析ツールです。ログデータを収集し分析を行うことで、現状の業務フローを可視化し、明らかとなった実態を踏まえて、改善すべき課題や問題点を見つけ出し、改善策を講じることで、業務改善や効率化を支援します。
従来の業務フロー改革の取り組みでは、現状の業務マニュアルを踏まえて業務に関わる様々な関係者にヒアリングを行い、マニュアルと実態の乖離を明らかにし、その内容を手作業で記録した上で、関係者にその内容を確認し修正を繰り返すなど、多大な時間と労力が必要でした。さらに、ヒアリング対象者の業務理解度や経験値によっては、頻度の低い例外処理やいわゆるローカルルールなどは見過ごされてしまうケースもありました。
しかしながら、プロセスマイニングの登場により、手間や労力をかけずに、発生頻度の低い例外処理やローカルルールなどを含んだ包括的な業務フローの可視化が可能になり、効果的かつ効率的なアプローチができるようになりました。このような背景により、購買業務フローの改善においてプロセスマイニングへの注目度が高まっているのです。
クラウド――購買・調達業務で利用される多くのアプリケーションが移行
クラウドとは、物理的にハードウェアを用意したりソフトウェアをインストールしなくても、インターネットを通じて必要なサービスを使うことができる技術を指します。身近な例としてはマイクロソフト社が提供するメールサービス「Teams」が挙げられます。かつては専用のソフトをパソコンにインストールして使用するのが当たり前でしたが、Teamsに代表されるクラウドサービスによって、インターネット環境と端末さえあればどこでもコミュニケーションができるようになりました。これによって、これまでの働き方に大きな変化をもたらしました。
また、クラウドサービスの信頼性やセキュリティ向上は、企業のシステム運用にも大きな変化を起こしています。これまで自前のデータセンターで運用してきたほとんどの業務を、クラウドサービスで行えるようになりました。前段のコミュニケーション手段はもとより、購買管理や契約管理、サプライヤー管理、支払業務といった分野まで、購買・調達業務に必要とされるほぼ全てのアプリケーションがクラウドへ移行しています。
購買・調達アナリティクス――人間をはるかに上回るデータ収集と分析
購買・調達アナリティクスは、購買・調達業務のさまざまなデータを収集し、その分析によって高い成果が見込まれる課題を明らかにしたり、そうした課題を特定できる技術を指します。これは、購買・調達業務の効率化や生産性を高めることにもつながります。従来は、自社で購買・調達業務の課題を定義したり、そのための取り組みを進めたりすることは、購買担当者の経験や勘によって進められていました。社内外さまざまな関係者を巻き込んで取り組んでいたとしても、やはりそこには人間のバイアスが入り混じってしまいます。調達アナリティクスは、客観的なデータによって購買・調達業務の現状を分析するためには欠かせない技術と言えるでしょう。
購買・調達領域でデータ活用が必要・有用とされる施策は何なのでしょうか。「コスト削減を図る」「コスト削減の余地がある領域を特定する」ためのデータ活用や、「サプライヤーのパフォーマンス向上」、「購買・調達にかかるオペレーションコストの削減」などが挙げられます。しかしながら、現状は、日本を代表するような大企業でもデータを十分に活用できていないというケースがまだまだ多いのが実情です。せっかく購買・調達業務にまつわるさまざまなデータを集めているのに、適切なデータ分析が行われていないため、正確にデータを評価できず、効果的な施策を実行できずにいるのはもったいないことです。
購買調達DX活用のメリット
購買・調達の業務分野へテクノロジーを導入することは世界的な趨勢となっています。このトレンドを見て「自社でも活用を急がなければ」と考える購買担当者も少なくないでしょう。購買・調達DXを活用するメリットとは何なのでしょうか。ここでは、AIを例として整理していきます。
業務効率化によって本来の購買調達業務のミッションへ
購買調達DXを推進している企業で、まず大きな効果として挙げられるのは「業務の効率化」です。それまでは人が担っていた作業をテクノロジーが代替することで、大幅に工数を削減できます。自身が学習して推測能力を高めていくAIの活用も、業務効率化に大きく繋がります。
価格査定においては、AIとBIツールを活用することで新たな査定手法が生まれています。自社の購買データを収集し、それに基づいた価格推定ができるようになっています。価格査定プロセスではさまざまなデータをもとに価格の妥当性を判断し、従来のようにさまざまなデータをクレンジングするといった手間を削減することにもつながっています。
また、購買・調達部門やシステム部門のもとに寄せられる「社内問い合わせ」への対応も、AIが得意とするところです。社内ユーザーからの膨大な問い合わせを整理し、チャット機能などで自動回答するAIソリューションも登場しています。このような業務効率化は、購買が本来向き合うべき業務(コア業務)や戦略への特化を可能とします。
「バイアス」にとらわれないサプライヤー選定ができる
サプライヤー選定プロセスにおけるAIの活用は、ソーシング業務の重要な要素である「サプライヤーソーシング」の効率化や質の強化にもつながります。AIが参照するデータはサプライヤーの評価点数などの数値化できるものだけではありません。サプライヤー固有のリスクや潜在的な地域のリスクといった情報も最大限に活用し、最適なサプライヤーかどうかを判断できます。AIと人の大きな違いは、「バイアス」(ゆがみ)の有無です。従来のように人が判断するサプライヤー選定では、担当者のバイアスは避けられませんでした。客観的な情報に加えて担当者の好みや偏見も判断に影響を与えてしまうからです。AIは不必要なバイアスを排除し、最適なサプライヤー選定に向けて学習を重ねていきます。
支出分類の半自動化が可能に!
支出分析における大きな進歩として、AIを活用した「支出分類」が挙げられます。支出分類は、UNSPSC を活用したり、複数の情報を参考に適切な品目カテゴリを判断するだけの単純な作業ですが、ルール化が難しく、なかなか自動化することができない作業でした。そのため、かなりの工数を要して対応する必要がありましたが、単純作業の繰り返しで集中力の維持が難しいことに加え、人によって分類基準がずれてしまうなどの課題がありました。しかし、近年のAI技術の進歩により、こうした作業を半自動化することが可能になっています。人による作業よりも効率的であることに加え、分類基準のバラツキなどの精度面の課題も解消することができます。
従業員や組織全体の生産性向上に繋がる
ユーザー一人ひとりをつぶさに観察し、データ収集・分析による最適解を提案できるAIの強みは、組織全体の生産性向上にも活用できる可能性があります。AIとプロセスマイニングを組み合わせて活用することで、生産性を向上させるパッケージを作ることも可能です。
蓄積された個々のユーザーの操作ログや画面変遷などの業務データをAIに学習させることで、購買・調達業務フロー内でユーザーがどんな行動をとっているのかを認識できるようになります。その結果、業務のボトルネックや非効率プロセスの発見、正規処理からの逸脱プロセス・不正プロセスの評価、既存業務プロセスの改善などをAIにより素早く正確に実施することが可能となります。
購買調達DX活用の注意点
前述したように、調達・購買テクノロジーを活用することで得られるメリットは大きいです。一方で購買・調達の課題は、テクノロジーを導入するだけで解決できるような単純なものばかりではないのも事実です。安易に調達・購買テクノロジーを導入しようとすることで、新たなリスクを生み出したり、デメリットを生じさせたりする可能性もあるため、注意する必要があります。
AIやデータ活用にはバイアスがつきもの!
購買・調達テクノロジーの進化によって、社内にある様々なデータを整理し、その分析結果に基づいた合理的なアプローチを検討できるようになりました。経験や勘といった属人的なスキルに頼らざるを得ないことが多かった購買の世界が大きく変わりつつあります。購買部門内でのバイヤー育成も、明確な基準を持って進めていけるようになるのではないでしょうか。
しかしながら、新たなテクノロジーやシステム、ツールを導入するだけで必ずしも課題解決につながるわけではありません。そもそも、解決したい課題が明確になっていなければ、なぜ自社にDXを導入する必要があるのかも曖昧になってしまいます。
また、新技術であるAIは誰でも使える訳でなく、弊害が全くない訳ではありません。というのも、使う側にデータ分析の経験と統計的なスキルが求められる上に、データ活用には誤差や統計的バイアスがつきものなのでどのようなバイアスが生じうるのかを理解しておかないと大きな間違いを犯してしまいかねません。また、AIを導入する際は、どんなデータを与えて学習させるのかということも大事なポイントです。例えば、過去の購買データを学習させる場合、そこに間違いがあれば、AIにも同じ間違いを繰り返させてしまいます。ほかにも、大前提として欠かせないのは、「購買・調達業務に対する問題意識」です。会社のために何ができるのか、何をすべきなのかと絶えず問いかけながら業務に目を向けなければ、組織や業務のどこに問題があるのかを自覚することはできません。
DX導入を無駄にしないためには、データの振り返りが大切!
購買・調達業務を通じて抱いた問題意識の妥当性を検証していくことも必要になります。その検証に有効なのがデータであり、改善点が明確になった際に効果を発揮するのがテクノロジーです。まず始めるべきこととしては、組織内での意思決定に用いられる情報を、すべてデジタルデータとして保存する仕組みとルールを作るべきです。
購入品のコスト構造や仕様、発注価格、数量の情報など、後々の分析において有用となるデータはできる限り購買管理システム上に保存し、一元管理しておきましょう。データ活用に明るい、「統計リテラシーの高い人材」が購買部門内にいることも重要です。もし現状の購買部門メンバーが事務系社員で固められているなら、データ分析の経験を持ち、統計に精通している人材を活用することも効果的です。
このようなプロセスを経ることは、購買・調達DXの活用を考える前にまず、自社の購買データの管理状況を振り返ってみることにつながります。例えば、エクセルで管理しているデータがあるならば、それをどんな目的で、どのように活用できているのかを振り返る必要があります。もし現状においてもデータの活用目的が明確になっていないのであれば、DXの導入が無駄になってしまう可能性もあります。
ヒアリングやブレインストーミングで自社の課題や改善点が明確になることも
現在では数多くの購買・調達のDX関連企業があり、さまざまなシステムやツールが生み出されています。使い勝手のいいシステムやツールであれば、すぐに使い始めることができるかもしれません。しかしながら、すべてをベンダー任せにしてしまうことで、本来の目的とはかけ離れた状況を生んでしまう可能性もあります。見方を変えると、購買・調達DXの導入を検討することは、自社の現状を見つめ直す機会とも言えるのかもしれません。
しかしながら、やみくもに導入・活用すれば良いというものではありません。DXを推進するには、業務的な視点から自社に適したDXを定義する力、データを適切に評価する力が求められます。例えば、支出データを分析するにあたり、コスト削減という評価軸では、漠然としすぎています。明確な軸がなければ、目の前に出された結果に対して適切な評価・判断はできません。
また、ディープラーニングにおいては、AIの判断根拠が分からない「ブラックボックス問題」もあります。だからこそ、きちんと軸を持つことが重要になります。購買部門や購買業務のあるべき姿から評価軸を設定すると同時に、業務や働き方、部門運営の枠組みをデザインし直すことが、DXとうまく付き合う第一歩となります。安易に「DXの流れに乗り遅れてはいけない」「調達・購買DXを活用できる仕組みを整えなければいけない」と闇雲に進めるのではなく、本当にDXが必要なのか、課題解決にDXが有効であるのかを考えるべきです。なんでもDXに頼るのではなく、ヒアリングやブレインストーミングで自社の課題や改善点が明確になるケースもあります。案外、その課題は今の体制でも解決できることかもしれません。