支出分析
購買・調達NAVI
支出分析とは、コスト削減や業務効率化、サプライヤーとの関係強化を目的に支出データを分析することです。支出分析を通じて、現状を正しく可視化することで適切な課題解決のアプローチを探ることが可能となります。近年データ分析技術が発展する中、購買・調達業務においてもデータに基づいた戦略や施策が求められるようになっています。
支出分析とは
支出分析は、誰が、何を、どのサプライヤから、いつ、どのような商流で購入しているかを、金額・数量・件数面で明確にする作業です。購買実績を可視化しさまざまな軸で分析して、自社とサプライヤーの両方の面から支出削減や業務改善の機会を見つけることを目的としています。 具体的な例としては、集約化・標準化によるコスト削減、コンプライアンスや内部統制の確保、業務効率の向上などがあげられます。購買データや経理データ等の実際の支出を記録したトランザクションデータを集計し、購買品目ごとの支出額を把握することが出発点となります。品目別の支出額が把握できれば、明細データに含まれるサプライヤー名称や起票者が自由記述で入力した支出内容などを確認しながら品目ごとに、課題の特定や改善アプローチを検討することが可能となります。
しかしながら、購入品目名や仕様・型番、単価などの情報が含まれたデータが社内に存在せず、自社の購買データの整備状況が十分ではない場合は、支払情報しか載っていない「経理データ」を対象に支出分析せざるを得ないことがケースも多々あります。
支出分析の対象
企業の支出構造は主に次の4種類に分類され、支出分析の対象となるのは「モノ・サービスの購入に関わる支出」までです。それぞれの支出構造の区分を明確にし、「モノ・サービスの購入による支出」については、可能な限り購買部門の管理下に置くことが望まれます。
支出構造の区分
- ・【総支出】損益計算書上の費用の総額
- ・【モノ・サービスの購入による支出】従業員の給与や租税公課などを除いたモノ・サービスの購入に関わる支出
- ・【管理対象にできる支出】モノ・サービスの購入に関わる支出のうち、購買・調達部門の管理対象とすべき支出
- ・【管理下にある支出】購買・調達部門で既に管理できている支出
分析の対象データは、購買データが望ましいですが、実際には経理データも併せて対象にすることも多いです。というのも、購買データは品目カテゴリや単価などの情報が含まれており、より正確に分析することができますが、購買業務の成熟度の低い企業では、支出全体に占める購買データの割合が小さいからです。支出分析の目的は、全社規模の購買ボリュームを活用した改善機会の特定であるため、支出全体を網羅していることが重要であり、経理データも対象にするケースが多いです。
支出分析のメリット
支出分析は自社にどのようなメリットをもたらすのか、以下に整理しました。
支出の可視性向上によるコスト削減機会の創出
支出分析がもたらすメリットの一つは、支出の可視性の向上とコスト削減機会の創出です。支出分析を通じて支出構造が視覚的に明確化され、モノやサービスの購買支出の透明性を高めることができます。支出の透明性が高まることで、支出パターンやトレンドを分析でき、主要な購買品目からテール支出に至るまでコスト削減の機会を特定しやすくなります。テール支出の管理やサプライヤーの集約、集中購買 への取り組みを推進することで、コスト削減できる可能性が大きくなります。
購買プロセスの改善や効率化の実現
支出分析は購買プロセスの効率化を可能にします。具体的には、カタログ外の購買支出を追跡し、カタログ購買 の利用率を高める取り組みを行ったり、サプライヤー集約すべき購買カテゴリーを特定・改善することで管理の手間を削減したり等が挙げられます。このように購買プロセスを改善・効率化することで、オペレーションコスト削減が期待できます。
コンプライアンスの確保とリスク管理
支出分析を通じて、契約に基づかない支出やそういった支出が多いカテゴリー・品目、契約外のサプライヤーへの発注を特定することも可能です。定期的に支出データを確認・モニタリングして、規定外支出や契約外支出、注文書なし発注、立替精算払い、不正発注の活動を検出・コントロールすることができます。
サプライヤーとの関係強化
支出分析を活用することで、サプライヤーをいくつかのカテゴリーに分けて層別管理することができます。支出金額で上位を占める品目を中心に、ビジネスへの影響度合いに応じてサプライヤーを層別管理しておくことで、最適なサプライヤー選定が容易になったり、ランクに応じた関わり方を明確にすることができます。
支出分析の種類
支出分析とは、支出データを様々な分析軸で抽出・集計することにより、コスト削減や業務改善の機会を創出していく作業です。ここでは、代表的な支出分析の種類を以下に整理しました。
テール支出分析
テール支出とは、総支出額にすれば2割に過ぎませんが、総支出件数の約8割を占める支出のことを指します。テール支出は、「少額、小ロット、多品目、突発的」という特性から見過ごされがちですが、支出管理において非常に重要な領域です。テール支出は、購買判断が現場任せになるケースが多いため、コスト意識が低く不正な購買の温床になっていることも少なくありません。逆に言えば改善の余地が非常に大きい領域とも言えます。テール支出分析を行うことは、支出の実態を把握し不適切な支出を特定したり、コンプライアンスを促進することに繋がります。様々な分析方法がありますが、一般的なものとしては、サプライヤー毎の年間支出額を抽出し、その年間支出額に基づいて各サプライヤーをランク付けしていきます。総支出額の約20%を占める下位サプライヤー群は、テールと判断することができます。
近年、テール支出の管理の重要性はより高いものとなっています。支出の実態が把握できていない領域だからこそ、きちんと分析・管理することで、大きなコスト改善を実現できる可能性が高いです。
カテゴリ支出分析
カテゴリ別の支出を把握することで、その時々の状況やプロジェクトに応じてコスト削減が見込めるカテゴリを特定し、適切な施策を検討・実施することができます。カテゴリ支出分析では、支出データをカテゴリ階層別に集計し、カテゴリ階層別の支出分布を見ることで、注力すべき支出額上位のカテゴリが明確になります。大きな改善効果を実現するためには、支出が小さなカテゴリよりも、支出額上位のカテゴリを優先的に考える必要があります。
サプライヤー支出分析
サプライヤー支出分析とは、一言で言うと、各サプライヤーへの支出額を把握・監視していく作業です。カテゴリ毎に取引件数や頻度の少ないサプライヤーを把握し、主要サプライヤーに集約していくことが目的です。具体的には、特定の品目を様々なサプライヤーから購入している場合、購入先サプライヤーを減らし、主要サプライヤーに集約することで、購買コストの削減や購買条件の改善に繋がります。そのためにも、どのサプライヤーからどのくらい購入しているのかの見える化が不可欠になります。
購買品目支出分析
購買品目支出分析とは、購買品目レベルで支出を分析することです。各購買品目をどの部門がどのサプライヤーからどのくらい購入しているかというところまで把握します。特定の品目をさまざまなサプライヤから購入していたり、各部門・拠点で異なる価格で購入している場合には、分析に基づきサプライヤーの集約や集中購買、カタログ購買を推進することで、購買単価の削減や購買条件の改善、業務効率化が図れます。
契約支出分析
モノやサービスの購入が適切な契約に基づいて行われているかも支出分析の重要な要素の1つです。契約毎にサプライヤーとの支出を分析し、契約外支出を特定します。こういった支出に対して、事前に締結された有利な条件の契約をきちんと適用することで、購入価格の削減を図ることができます。
支出分析の手順
ここでは、実際に支出分析を行うための3つのステップを解説します。このステップを実施することで、有用な支出分析用データが準備されます。
1.データソースの特定とデータ抽出
先にも述べたように、購買データのみならず、経理データも必要になるケースが多くあります。ただ、一口に経理データと言っても、様々なデータ項目が含まれますが、何を買っているかを特定するための情報は必須です。加えて、「いつ」「どの部門が」「どのシステム経由」で購入しているかまで分かると、より正確な支出分析を行うことができます。経理データに含まれるべき最低限のデータ項目としては、以下のようなものがあります。
- ・勘定科目
- ・補助科目、品目等
- ・摘要、備考等
- ・購入(発注)部門
- ・取引日
- ・仕入先(取引先)
- ・単価
- ・数量
- ・金額
その一方で、経理データには外部サプライヤーへの費用だけではなく、様々な仕訳データが含まれています。例えば、退職手当や一時金といった社員給与に関連する費用や、科目・負担課振替、減価償却費などがあります。これらを除外して、実際に外部サプライヤーへ支払われている費用のみを対象にしなければいけません。また、抽出元の異なる複数のデータセットを統合する場合は(例:購買管理システムから購買データを抽出し、ERPから経理データを抽出するなど)、重複データがないかなど使用するデータセットの整合性に注意する必要があります。
2.データクレンジング
抽出したデータの正確性を確保するためには、データクレンジングが不可欠です。データクレンジングとは、破損したデータや不正確なデータを特定・修正する作業で、具体的には、重複データの削除や値の誤り・不統一を修正する必要があります。
3.データエンリッチメント
データエンリッチメントとは、既存のデータに補足情報や文脈を加えて、付加価値を高めることです。支出分析においては、データ項目の値に対応する分類区分やコードを付与します。
支出分析を行う際の注意点
支出分析を行う上で重要なのは、適切な品目分類コードが付されたデータの用意です。先にも述べた通り、通常経理データは品目カテゴリ情報を持っていません。経理費目や勘定科目は付与されていますが、購買データとしては、これらの情報では不十分です。また、経理データには仕訳のための仮計上や相殺のデータも入っていることもあります。それをそのまま支出分析に使用してしまうと、誤った判断に繋がります。したがって、経理費目や品名、請求書のタイトル等の経理データに記載されて情報から品目カテゴリを類推し、支出分析用のデータを作成しなければなりません。もし複数人で品目カテゴリを付与する作業を行う場合、分類結果にバラつきが生じてしまう可能性があるので、注意が必要です。
支出分析で最適な課題解決アプローチを!
購買・調達の仕事はもっぱら「経験と勘」によるものだと言われてきました。1件当たりの支出額の大きさのみでコスト削減の対象とする購買品目やサプライヤーを判断し、何の根拠もなく削減目標額を決めている企業も少なくないでしょう。しかし、こうした経験と勘に基づく購買・調達は、本当に最適な結果を生み出せているのでしょうか。
購買・調達業務で取得できるデータは膨大です。全ての拠点におけるこれまでのサプライヤーとの交渉履歴、価格、品質、市況と価格の関係など多岐にわたります。そのデータを基に分析を行うことで、今後のサプライヤー戦略やコスト改善の施策のヒントを得ることもできます。社内に存在する様々な支出データに目を向け活用することで、データに基づく購買・調達業務が可能になるのです。