購買コンプライアンス
購買・調達NAVI
近年、購買・調達業務におけるコンプライアンス(法令遵守)への対応が重視されています。適切な対応を怠ってしまうと、社会的な信用を無くすだけでなく、社内外の人間関係の悪化にもつながってしまいます。ここでは、購買・調達業務において遵守すべきコンプライアンスの内容とそのポイントを解説します。
購買コンプライアンスとは
購買コンプライアンスとは、全社的な視点で決められた購買のルールやプロセスを社内の事業部・部門・グループまたは社員全員に守らせることです。したがって、遵守するは法令のみにとどまらず、「企業に求められるさまざまな規範や倫理、購買のルールやプロセスなど、広範囲に及びます。購買・調達活動を進めていく中で、それらを健全に行うための仕組み作りが求められます。現在、企業規模や業種にかかわらず、多くの企業で購買コンプライアンスやガバナンスに対する取り組みが積極的に行われており、その内容も年々高度になってきています。また、関連子会社やグループ企業における購買規定や基準を作成したり、従業員に対する研修や勉強会を行ったり、内部通報制度を構築することは、ごく普通の取り組みとして認識されています。購買・調達業務がグローバル化・複雑化している昨今社内外に潜んでいるさまざまなコンプライアンスリスクに対して、適切に対応できることが求められています。
購買コンプライアンスが重視される背景
購買業務は金銭が絡むため、不正の温床となりやすく、様々なコンプライアンスリスクが存在します。では、コンプライアンス上の問題が生じたとき、具体的にどのような影響があるのでしょうか。
まずは、行政から罰則処分を受ける可能性があります。法令違反に対する行政の対応は、近年厳しくなっています。特にコンプライアンスが重視されるようになった2000年以降は、是正勧告をなどの行政指導を経ることなく、違法行為が発見された段階で、直ちに違反者として処罰される「直罰規定」を盛り込むケースも増えています。
また、訴訟手続きが簡素化されたことにより、株主代表訴訟を行いやすくなったことも要因の一つです。例えば、コンプライアンス違反により株価が下落した場合、株主は経営陣に対して適切なコンプライアンス体制の構築を怠った責任を追及し、損害賠償を求める訴訟を起こすことが現実的になっています。コンプライアンス軽視の風潮が社内に醸成されてしまうと、社員も不正を当たり前のように感じてしまい、サプライヤーとの癒着や不正発注、下請法違反など、問題を起こしやすい職場環境となってしまいます。
その結果、「内部統制の効いていない企業」「コンプライアンス対応ができていない企業」というイメージが社会に定着してしまい、長年積み上げてきた信用を一瞬のうちに失ってしまい、企業価値は著しく低下することになります。コンプライアンス違反による不祥事は、深刻なダメージつながりかねないため、コンプライアンスをいかに効果的に機能させるかは、企業にとって重要な課題といえます。
購買コンプライアンスに重要な4つの要素
購買コンプライアンスにはいくつかの要素があり、これらを整理して考えると、自社のコンプライアンスの取り組みにおいて欠けているものを把握することができます。もちろんこれらを購買調達KPIとして管理していくことも効果的です。
- ・システムコンプライアンス:決められたシステムを使用して購買業務が行われ、支出内容を把握できる
- ・プロセスコンプライアンス:購買プロセスが遵守されている
- ・サプライヤーコンプライアンス:主要サプライヤーや指定サプライヤーに購入ボリュームを集約している
- ・オペレーションコンプライアンス:個別契約や購買施策がオペレーションに正しく適用されている
システムコンプライアンス
システムコンプライアンスとは、決められた購買管理システム を使用して購買・調達業務が行われており、支出内容を把握できる状態を指しています。つまり、購買・調達部門が取り扱うべき物品・サービスが正しいシステムを使って支払いにつながっているかを把握することです。
サプライヤーへの支払方法は、主に注文書、請求書、立替払いの3種類に分かれます。注文書については、基本的に購買・調達部門で全て取り扱うべきですが、請求書については、交際費や公共料金等の購買・調達部門の範囲外の支出もあります。出張時の航空券やホテルなどの立替払いに関しても、購買・調達部門が契約レートを契約しているもの以外は、社員が直接購入することが多いです。
このように発注や支払いのシステムが複数あり社員が複数を使える場合や、新たに購買管理システムを導入した際にはこのシステム通過率を指標として、指定した購買管理システムの使用率を管理していくことが効果的です。システムコンプライアンスでは、購買・調達部門の取扱い金額を正確に把握し、状況に応じて担当範囲を定期的に見直していくことが必要になります。
プロセスコンプライアンス
プロセスコンプライアンスは、モノやサービスの購入が、正しい購買規定に沿って行われているかの遵守率を指します。購買プロセスを遵守しているか否かは、時系列的に正しい順序で業務が行われているかがポイントになります。例えば、規定では注文書を出さないといけないものが請求書で支払われているケースや、事後発注であることが明らかなケース(希望納期が過去日付になっているなど)等がないかを確認する必要があります。購買管理システムのデータを見れば、購買プロセスの遵守度の確認は容易にできそうですが、システムだけで確認できるものは一部に過ぎず、購買担当者の判断が求められるケースも多々あります。
サプライヤーコンプライアンス
サプライヤーコンプライアンスは、購買・調達部門が選定した主要取引先や指定取引先への集約度を指します。戦略ソーシングにおいては、品目カテゴリ毎に主要取引先や指定取引先を選定し、そこに注文を集約することで価格低減の効果を最大限に高めていきます。 ユーザーへのガバナンスが効いていないと、主要取引先や指定取引先を選定しても、集約度が高まらないということにもなりかねません。こういった状況を防ぐためには集約度の見える化を行い、状況に応じた適切な改善を図っていくことで大切です。
オペレーションコンプライアンス
オペレーションコンプライアンスとは、各購買プロセス(購買依頼から支払いまで)が適切に管理・コントロールされ、購買施策や個別契約に沿って適切な業務が行われているかのコンプライアンスです。つまり、購買オペレーションの正確性を向上させるためのコンプライアンスです。具体的には以下のようなことが正しく行われているかを見る必要があります。これらを実現するためには、適切な操作マニュアルに加え、十分なトレーニングが必要になります。
- ・各サプライヤーとの個別の契約条件が正しく適用されているか
- ・下請法対象サプライヤーに対する対応が法的に適切なものであるか
- ・優先サプライヤーや指定サプライヤーの集約化に事前に決められた手順で取り組んでいるか
- ・事前に決められた手順でカタログ購買 に誘導することに取り組んでいるか
RPAやAI、デジタルアダプションツールなどの外部ツールを活用することで、よりオペレーションコンプライアンスの向上を図ることができます。
【参考】
購買関連システムのオン・ボーディングを成功させるには?~支援サービスの種類と比較ポイント~
自社の購買・調達業務に合った最適なコンプライアンス体制を構築しましょう!
購買・調達業務を行う上でコンプライアンスの徹底は不可欠です。そのためには購買管理システムのみならず、必要に応じて他のツールも活用して、コンプライアンス違反を防止できる体制を整備することが必要になります。つまり、コンプライアンス体制を構築するだけでなく、常に見直しながら運用していくことが求められます。